不眠症

不眠症とは



睡眠に関する疫学調査では日本では一般成人の約30%の方が不眠の悩みを抱えており、約10%の方が慢性不眠症に該当します。女性に多く、加齢とともに増加します。

原因はかゆみ(アトピー性皮膚炎など)、痛み、呼吸の苦しさ(喘息、心不全、睡眠時無呼吸症候群など)、排尿障害(前立腺肥大症、膀胱炎など)、うつ病などの精神疾患、嗜好品(覚醒作用のあるカフェイン、アルコール、ニコチン、一部の風邪薬など)、日中のなど人によって様々の原因が考えられます。

不眠のタイプは寝つきが悪くなる(入眠困難)、朝早くに目が覚める(早朝覚醒)、途中で目が覚める(中途覚醒)などがあります。これらの不眠の症状があっても日中に不調がでなければ問題ありません。不眠によって、日中に眠気や疲労感、集中力や注意力の低下などの何らかの不調が現れると不眠症となります。症状の持続が週3日以上、3か月を超えて続くと慢性不眠症となります。
なお、睡眠時間は問題ではありません。一般的に加齢とともに睡眠時間は短くなっていきますし、そもそも必要な睡眠時間は個人差も大きいものです。

不眠症の原因

不眠症は特定の原因のない原発性不眠症とうつ病や体の病気、薬や嗜好品の摂取など原因の特定できる二次性不眠症と分けていましたが、2014年に改定された睡眠障害国際分類(ICSD-3)では原因による分類ではなく急性と慢性で分けることになりました。なぜなら、原因別にわけても不眠症の病態は似通っていることが多いことや原因が改善しても不眠症は改善していないことが多いことなどの理由があげられます。では慢性不眠症に共通して認める病態について詳しく説明します。

過労やストレス、夜遅くまでSNSを見ていて目が冴えてしまった等何かの理由で不眠になったことは誰しも経験あると思います。多くの方は数日で改善しますが、中には不眠が続いていると、「また今日も眠れないのではないか」「明日は大切な予定があるから寝れるか不安だ」と不眠に対する不安(不眠恐怖)が強くなる方がいらっしゃいます。元々、睡眠に悩みを抱えている方や神経質で完璧主義な方おこりやすいです。
この不眠恐怖から、普段よりも早く布団に入るなど不適切な眠るための努力を行う方がいらっしゃるかもしれません。しかし、眠たくないのに早くに布団に入ると、かえって「眠れない」という不安や苦痛が強くなり、その結果、布団の中で神経が高ぶってしまい目が冴えて眠れないという悪循環が生まれます。
これは「夜によく眠りたい」と思えば思うほどこの意識が強くなって睡眠の妨げに繋がります。この不眠恐怖に基づく病態は、前述の様々な原因のある方でも見出せることが多くあります。

不眠症の治療方法

不眠症の治療は睡眠衛生指導認知行動療法薬物療法があります。

睡眠衛生指導

睡眠衛生指導では睡眠について正しく理解し、睡眠に良い影響を与える日常生活の工夫を行うことが重要です。就寝時間が近づいてから「眠るための努力」を行うのではなく、覚醒時から始まる日中をどのように過ごすかが重要です。厳しい言い方をすれば、就寝時にはその日の睡眠を規定する因子の多くはすでに決定しているのです。厚生労働省が2014年に科学的根拠に基づき作成した「健康づくりのための睡眠指針2014」に具体的に要点がまとまっています。

第2条、7条、9条では睡眠‐覚醒リズムについて言及しています。規則正しい生活が重要なことは当然ですが、決して寝る時間にこだわりすぎる必要はありません。重要なのは同じ時刻に起床することです。そして起床後に適度な日光を浴び、日中はできるだけ連続して起きて過ごすことで睡眠-覚醒リズムを整えることができます。
第10条は前述の不眠恐怖についての説明です。「眠れるのか」と不眠に対する不安から、かえって体が緊張したり目が冴えてしまったら、一度寝床から出て気分転換をしてリラックスし、高ぶった神経を落ち着かせ、眠気を感じたら寝床へ行き、「遅寝・早起き」を実践するとよいです。
このように睡眠について良いこと・良くないことを正しく理解することが大切です。また睡眠衛生指導には睡眠薬についての理解も含まれます。診察のもとに適切に使用していただく睡眠薬は基本的に安全です。

第1条 良い睡眠で、からだもこころも健康に。

  • 良い睡眠で、からだの健康づくり
  • 良い睡眠で、こころの健康づくり
  • 良い睡眠で、事故防止

第2条 適度な運動、しっかり朝食、ねむりとめざめのメリハリを。

  • 定期的な運動や規則正しい食生活は良い睡眠をもたらす
  • 朝食はからだとこころのめざめに重要
  • 睡眠薬代わりの寝酒は睡眠を悪くする
  • 就寝前の喫煙やカフェイン摂取を避ける

第3条 良い睡眠は、生活習慣病予防につながります。

  • 睡眠不足や不眠は生活習慣病の危険を高める
  • 睡眠時無呼吸は生活習慣病の原因になる
  • 肥満は睡眠時無呼吸のもと

第4条 睡眠による休養感は、こころの健康に重要です。

  • 眠れない、睡眠による休養感が得られない場合、こころの SOS の場合あり
  • 睡眠による休養感がなく、日中もつらい場合、うつ病の可能性も

第5条 年齢や季節に応じて、ひるまの眠気で困らない程度の睡眠を。

  • 必要な睡眠時間は人それぞれ
  • 睡眠時間は加齢で徐々に短縮
  • 年をとると朝型化 男性でより顕著
  • 日中の眠気で困らない程度の自然な睡眠が一番

第6条 良い睡眠のためには、環境づくりも重要です。

  • 自分にあったリラックス法が眠りへの心身の準備となる
  • 自分の睡眠に適した環境づくり

第7条 若年世代は夜更かし避けて、体内時計のリズムを保つ。

  • 子どもには規則正しい生活を
  • 休日に遅くまで寝床で過ごすと夜型化を促進
  • 朝目が覚めたら日光を取り入れる
  • 夜更かしは睡眠を悪くする

第8条 勤労世代の疲労回復・能率アップに、毎日十分な睡眠を。

  • 日中の眠気が睡眠不足のサイン
  • 睡眠不足は結果的に仕事の能率を低下させる
  • 睡眠不足が蓄積すると回復に時間がかかる
  • 午後の短い昼寝で眠気をやり過ごし能率改善

第9条 熟年世代は朝晩メリハリ、ひるまに適度な運動で良い睡眠。

  • 寝床で長く過ごしすぎると熟睡感が減る
  • 年齢にあった睡眠時間を大きく超えない習慣を
  • 適度な運動は睡眠を促進

第10条 眠くなってから寝床に入り、起きる時刻は遅らせない。

  • 眠たくなってから寝床に就く、就床時刻にこだわりすぎない
  • 眠ろうとする意気込みが頭を冴えさせ寝つきを悪くする
  • 眠りが浅いときは、むしろ積極的に遅寝・早起きに

第11条 いつもと違う睡眠には、要注意。

  • 睡眠中の激しいいびき・呼吸停止、手足のぴくつき・むずむず感や歯ぎしりは要注意
  • 眠っても日中の眠気や居眠りで困っている場合は専門家に相談

第12条 眠れない、その苦しみをかかえずに、専門家に相談を。

  • 専門家に相談することが第一歩
  • 薬剤は専門家の指示で使用

<厚生労働省健康局編:健康づくりのための睡眠指針2014より抜粋>

認知行動療法

慢性不眠症の患者さんに対して誤った理解や行動を変えていく治療法です。上記の睡眠衛生指導に引き続き行うことで治療効果を高めます。まずは睡眠日記を書いていただき、自分の睡眠の癖や傾向を知るところから始まります。その上で「睡眠時間制限法」や「刺激制限療法」などの行動療法の技法を用いて不眠を慢性化している習慣や認知を改善していく治療法です。睡眠日誌を書いて頂き実施します。

薬物療法

薬物療法が必要な方には上記の睡眠衛生指導や認知行動療法と並行して実施します。不眠症に使われる薬にはそれぞれ特徴があります。効果の面では抗不安作用のあるものや抗うつ作用のあるものなどもあります。また作用時間の違いもあります。効果だけでなく、副作用の面でも違いがありますので、患者さんの年齢や身体疾患の有無などを考えながら薬剤選択を行います。