社交不安障害

社交不安障害とは

社交不安障害とは人前で注目されるような状況に対して強い不安や恐怖を感じることを特徴とした精神疾患の一つです。不安や恐怖を感じる状況の例として、社交的なやりとり(会話をする、よく知らない人達に会う)、人に見られる(人前で食べたり飲んだりする)、人前での何らかの動作をする(スピーチをする)などがあげられます。
またこのような場面で、自分が恥をかくような思いをするのではないかと不安や恐怖を感じ、この恐怖に伴って、赤面したり、汗をかいたり、震えるといった身体の症状や頭が真っ白になってしまうような精神面の症状が出ます。そのため社交不安障害の方は、人前で注目されるような状況を避けるようになり、学校へ行きにくくなったり進学や就職に制限が出ることもあります。そうなるとますます自信を喪失してしまい、学業、就労、人間関係など社会生活全般への影響が大きくなります。

疫学的には10代頃に症状がで始めることが多く、25歳以上での発症はまれです。学生時代は保護的な環境や緊張場面を回避して過ごされてきたり、引っ込み思案な性格の問題だと思いながら過ごされてきた方が、就職後は場面を回避することが難しくなり、30歳前後で初めて精神科を受診される方もいらっしゃいます。

社交不安障害の原因

社交不安障害の明確な原因はわかっていません。原因として一つだけではなく複数の要因が関わっていると考えられています。生物学的な要因として、脳内の不安に関わる神経ネットワークの関与が考えられています。他にも育ってきた環境や経験などの環境要因や遺伝的要因、性格的要因なども関与していると考えられています。

社交不安障害の症状

人前で注目を集めるような場面

  • 多くの人の前で話をする
  • 初対面の人と話す
  • 人前で食べたり飲んだりする
  • 人前で字を書いたり電話したりする
  • 会議でのプレゼンテーション
  • 授業での発表
  • 人前での失敗

このような状況で不安や恐怖を感じます。一つの場面だけに特定して不安を感じる方もいれば複数の場面に対して不安を感じる方もおられます。このような場面において感じる不安や恐怖に伴い、以下のような症状が現れます。

体や心に現れる症状

  • 赤面
  • 手の震えや体の震え
  • 発汗
  • 動悸、息苦しさ、声が出せない
  • 吐き気
  • 口喝
  • 便秘や下痢などの腹部症状
  • めまい
  • 頭が真っ白になってしまう

これらの症状が周囲から余計に「自分が変に思われるのではないか」とか「恥をかくのではないか」という不安につながり、より緊張するという悪循環に陥ります。
そしてこの状況が再び同じような場面で起こるのではないかと不安になり回避するこことに繋がります。

社交不安障害の治療方法

社交不安障害の治療の中心は薬物療法精神療法です。

薬物療法

薬物療法では選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)と呼ばれる薬を使用します。うつ病の薬として開発された薬ですが、社交不安障害にも効果があることがわかり後に使用可能となりました。このSSRIはセロトニンと呼ばれる神経伝達物質の調整を行い、感情を安定させる作用があります。効果が感じられるようになってから1年以上は継続して内服することが大切です。効果のある状態で、これまで避けてきたような大勢の人の前に出ても緊張が以前ほどは強くならずに行動できることを実感し、良い行動パターンを学習していきます。適切な行動パターンを学習してから服薬を卒業することが重要です。

精神療法

精神療法には様々な種類がありますが、社交不安障害では認知行動療法が有効です。社交不安障害の方には「周囲に自分は否定的に評価され失敗をする」という誤った認知があるため、この認知の誤りに気づき、適切な考えに置き換える認知再構成と呼ばれる認知療法が有用です。また不安や恐怖を引き起こす状況に段階的に暴露し、慣れていくことで回避していた行動ができるようになる暴露反応妨害法という行動療法の両者を組み合わせて実践します。薬物療法を行いながら精神療法も実施し、より適切な行動パターンを身につけていきます。

認知行動療法の実施は、診察時に課題の設定や前回受診までの振り返りを行い、自宅でホームワークとして実施していただきます。なお、社交不安障害の方は外来に来る、つまり電車に乗ったり受付をしたり、という場面に直面しまので、通院そのものが自己治療の場になることもあります。