強迫性障害(強迫症)

強迫性障害(強迫症)とは

強迫性障害とは、頭の中に浮かぶ考えやイメージにとらわれてしまい(強迫観念)、その考えやイメージを取り去るための行為(強迫行為)をやめられなくなる疾患です。患者さんはこれらのことを「ばかばかしいことだ」「なんでこんな無意味なことをやっているんだ」と感じているけれどやめることができないという特徴があります。
また強迫観念強迫行為を引き起こしてしまうような場所や物に直面すると強い不安を感じるため、やがてこのような場所や物を避けるようになります。結果、行動が制限され社会生活に影響が出ます。家族に自分と同様の行動を強要したり、自分のできない行動を代理でやらせようとすることも出てきます。
疫学的には、20歳前後で発症することが多いです。小児期の発症は男児の割合が多く、成人期では女性の割合が多くなります。

強迫性障害(強迫症)の原因

強迫性障害の原因ははっきりわかっていません。
以前は几帳面で完璧主義、秩序を重んじ、責任感の強い強迫性人格と呼ばれる性格傾向が発症とかかわりがあると考えられていましたが、最近では様々な研究が進み、心理的、環境的な要因よりも脳の機能障害が原因ではないかと考えられています。

強迫性障害(強迫症)の症状

強迫性障害は、強迫観念強迫行為の二つで構成されます。

強迫観念

強迫観念とは、繰り返して頭に出てくる考えや衝動、イメージのことで、不安や苦痛を引き起こします。いくつか例をあげてみます。

  • ばい菌や汚れがついてしまった
  • 人の唾液や便、尿がついてる
  • 車で誰かをひいてしまった
  • 誰かを傷つけた
  • ガスの元栓を締め忘れ火事がおこる
  • 玄関の戸締りをし忘れて誰か侵入する
  • 対称性や正しい順序にこだわる(そうしなければ不吉なことがおこる)
  • 特定の数字にこだわる

強迫観念とは苦痛を伴う考えやイメージで、それが浮かんでくることを辞めたいと思ってもやめることができないものです。

強迫行為

強迫行為とは、強迫観念によって引きこ起こされる不安や苦痛を一時的に軽減することを目的に行う行為のことです。

上記の「ばい菌や汚れがついてしまった」の例について考えてみます。

「汚い」と思う何かに触れると、「ばい菌がついてしまった」という強迫観念が頭の中に浮かびます。

その考えを取り払おうとしてもやめることができず、不安が沸き起こります。

その不安を軽減するために手洗いやシャワーを浴びる強迫行為を始めます。

    繰り返す

一般的な手洗いやシャワーではなく、自分のルールに基づいたやり方で、満足感が得られるまで続けます。1時間、2時間要することもあります。

強迫行為を行うと一時的に不安や苦痛が軽減しますが、強迫行為をやめると再び強迫観念による不安が起こるため強迫行為をやめれなくなります。

患者さんはこれらの不合理性を理解しておられるため、非常に苦痛を感じます。心身ともに疲弊し、社会生活に影響が出てしまうのです。
病状が進行すると家庭内でも儀式的な行為や自分の決めたルールに縛られ、同居する家族に確認を求めたり、行動の巻き込みがみられることもあります。

強迫性障害(強迫症)の治療方法

強迫性障害の治療は心理教育薬物療法暴露反応妨害法があります。

心理教育

まずは強迫性障害という病気について、正しく理解することから始まります。
強迫性障害は、患者さんそれぞれ独自の考え方やルールに基づいていることが多いので、一般的な概念だけでなく、患者さんそれぞれの強迫性障害についてしっかりと分析し、患者さん、家族、治療者の三者がその方の強迫観念や強迫行為について理解することが大切です。これを心理教育と言います。

また、強迫性障害とこれまでどのように向きあってきたか、今後はどうしていきたいかについて話し合うことも大切です。中には「自分の性格だから変えるつもりはない」「強迫行為をすることが自分らしさだ」という方もいらっしゃると思います。生活への支障、家族の巻き込みなどを伺い治療法について提案していきます。

薬物療法

日本ではSSRIと呼ばれる抗うつ薬のうちフルボキサミンパロキセチンが保険適応となっています。うつ病で使用するよりも用量は高く設定され、通常は漸増して十分量を一定期間継続します。
少なくとも服薬は1年は継続することが推奨されています。2年間服薬を継続した後、服薬を卒業された方では再発率が低くなることがわかっています。

暴露反応妨害法

暴露反応妨害法というのは、「不安を感じる対象に敢えて『暴露』し、その不安に対処するため行う強迫行為を敢えて『妨害』して行わない治療法」です。

不潔恐怖があり洗浄強迫を行ってる方を例に考えてみます。
まずはご自身が「汚い」と感じることに直面していただきます。ここでは共有のドアノブとしましょう。

ドアノブを触ると「ばい菌がついたかもしれない」という強迫観念が出てきて不安になります(暴露)。

普段であれば、不安を軽減するため自分の納得する手洗いを行いますが、ここでは手洗いを行いません(反応妨害)。

不安を感じたままになり、多くの方は手洗いができない不安から一時的により強く不安を感じると思います。しかし、この不安は時間が経つと必ず軽減することが研究からわかっています。手洗いをせず、不安を感じなくなることを確認します。一つの不安対象に対し、繰り返し練習します。すると強迫行為を行わなくても不安が軽減することを脳が学習していきます。そして強迫観念自体が起こる頻度が減っていきます。

暴露反応妨害法は課題の設定や振り返り等を診察で行い、自宅でホームワークとして暴露反応妨害法を実施していただきます。再診の診察時間はどうしても10分程度となりますので治療効果をあげるためにも自宅での取り組みが必要となります。

ご家族に対して

ご家族には本人に対する関わり方についてご説明致します。中には責任感や何とか状態が良くなって欲しいという思いから、本人の要求に応えるように努力されている方もいらっしゃいます。
しかし、要求に応え続けることは困難でしばしばご家族の心身の疲弊につながります。そのためご本人が行う治療がどのようなものであるかを理解頂き、必要な声かけ、対応についてご説明させていただきます。

強迫性障害の治療は一般的に良くなったり悪くなったりを繰り返し、段々と改善していきます。
そのためご本人もご家族も状態に一喜一憂することなく継続的に治療に取り組んで頂けるようにサポートしたいと考えております。