統合失調症

統合失調症とは

統合失調症とは、幻覚や妄想などの陽性症状意欲低下や感情鈍麻などの陰性症状認知機能障害を主な症状とした精神疾患の一つです。かつては治療の中断から再燃を繰り返し、慢性の経過を辿ることの多かった統合失調症ですが、現在は多くの効果のある薬があり、発症から治療開始までの期間を短くすることで薬の反応が良くなり、不可逆的な症状を防ぐことができることがわかっています。つまり、早期診断、早期治療が重要な疾患です。

統合失調症は10代後半から30代の若い世代に発症することが多く、進学や就職など重要なライフイベントの時期に影響をあたえるため、適切な治療を行い、社会機能を維持することが大切です。

統合失調症の原因

 統合失調症の原因はわかっていません。いくつかの仮説が考えられていますが、ドパミン仮説が有力です。ドパミンは神経伝達物質の一つで、「快楽ホルモン」とも呼ばれ通常は快感を感じたり意欲を出したりする働きがあります。このドパミンが中脳辺縁系という部位で過剰になることが原因ではないかと考えられています。

病因論としては「脆弱性・ストレスモデル」で考えられることが多いです。遺伝的背景や性格傾向など統合失調症になりやすさのある方が環境的なストレスを受けることで、それが引き金となって発症するという考え方です。単一の原因ではなく複合的な要因が発症に関わっていると考えられています。

統合失調症の症状・経過

統合失調症は前駆期急性期消耗期回復期の4つに分けて考えられます。

前駆期

統合失調症の診断基準をみたす程の症状は出ていない段階です。「周りのことに過敏になっている」「漠然とした不安感がある」「頭がうまく働かない」「集中できない」「神経が過敏になって眠れない」など何らかの精神症状があるけれど、日常生活は送れている方が多いです。しかし、精神症状の影響を受け、引きこもりがちになったり、あまり周囲と話さなくなる、学校を休みがちになるなど行動に変化が出てきます。

この前駆期がどのくらいの期間続くかは人によって様々です。ほとんど前駆期はなく幻聴や妄想などの急性期の症状から始まることもあれば、5年ほど続く方もおられます。
この前駆期の症状はストレス反応性の症状やうつ病とも似ており、前駆期において統合失調症と確定診断することは難しいです。多くは後から振り返った時に「あの時期は前駆期だった」とわかることが多いです。そのため前駆期を疑うような症状がある場合は、統合失調症に進展する可能性を念頭において慎重に経過をみていくことが重要です。

急性期

この時期は本格的な精神病症状が現れる時期です。急性期に出現する主な症状は陽性症状と呼ばれる①妄想②幻覚③自我障害があります。

①妄想

「周りがなんとなくおかしい」「何かがおこりそう」という妄想気分という症状が出てきます。
これが増悪すると「何か大事件がおこる」「とんでもない天災がおこる」などの世界没落体験という症状が出てきます。次第に、見たり聞いたりした出来事に対して特別な意味があると直感的に意味づけするようになります。例えば「今犬が吠えたのは事件がおこる合図だ」などです。これを妄想知覚といいいます。
ご本人はこういった妄想を確信しているので周りの人がいくら説明しても訂正できません。妄想の世界は日々の出来事を取り込みながら徐々に進展し、関係妄想、被害妄想が広がります。

②幻覚

統合失調症で起こりやすい幻覚は幻聴です。急性期にはほとんどの方に認めます。悪口を言ってくる幻聴、自分の行動に対して干渉してくる幻聴、対話形式の幻聴などがあります。また「盗聴器がしかけられている」「発信機がある」という被害妄想で幻聴の説明を行うこともあります。

③自我障害

これは自分と周囲との境界が不明瞭になる症状です。例えば、「自分の考えが人に知られている」という考想伝播、「人の考えが自分に入ってくる」という考想吹入、「考えを奪われる」という考想奪取などがあります。また「自分ではなく誰かに考えさせられている」というように捉えるさせられ体験(作為体験)という症状もあります。

急性期はこのような陽性症状が出てくる時期ですので、多くの方は不安や興奮、不眠等を伴っています。
できるだけ早急に薬物療法が必要となる時期です。

消耗期

適切な治療により陽性症状が改善し、その後、抑うつや無気力感、感情鈍麻、自閉傾向など陰性症状が前景に立つようになる時期です。急性期では激しい陽性症状に圧倒され、エネルギーを消耗し心身の疲弊した状態になるため、消耗したエネルギーを回復するために大切な時期になります。
そのため、この消耗期でも引き続きしっかりと休養に努めることが重要です。
ご本人やご家族が焦りを感じやすい時期ですが、急性期の症状が再燃しやすい時期でもあることに注意が必要です。

回復期

徐々に無気力な状態から回復を認める時期です。自然な表情変化が出てきたり活動量が徐々に増えてきます。
この時期の陰性症状や認知機能障害の程度は個人差がありますので焦らず、家族や支援者と相談しながら社会復帰に向けリハビリテーションを行っていきます。

統合失調症の方の人生を長い視点で考えると、社会生活を送るうえで重要なのは陰性症状や認知機能障害です。

認知機能障害では記憶力、注意力、判断力などに影響を与えます。
これらは就学や就労など社会生活に影響し、日常生活を困難にする原因となります。

繰り返しになりますが、統合失調症では有効な治療を早期に行うこと(未治療期間を短くすること)や再燃を防ぐことで陰性症状や認知機能障害の発現を小さくすることができます(陽性症状の程度と陰性症状や認知機能障害の程度は相関しません)。

※わかりやすく説明するために時期ごとに前景に立つ主な症状を記載していますが、それぞれの時期にどの症状が出ていてもおかしくありません。例えば、陰性症状は消耗期に記載していますが前駆期や急性期から認めていることが多いですし、消耗期や回復期に軽い幻聴が続いていることもあります。

統合失調症の治療方法

統合失調症の治療は薬物療法心理社会的療法があります。
いずれも患者さんの社会復帰やリカバリーに大切な治療です。

薬物療法

薬物療法では、リスペリドンオランザピンアリピプラゾールブロナンセリンなどの非定型抗精神病薬という薬を使用します。抗精神病薬の働きは、神経伝達物質であるドパミンのバランスを整える働きがあります。陽性症状だけでなく、陰性症状や認知機能障害にも効果が期待できます。

それぞれの薬には期待される効果、起こりやすい副作用、服薬の回数や服薬時間、剤形の違い等、それぞれに特徴がありますので患者さんの病状や生活スタイルに応じてお薬の提案をさせていただきます。その他にも病状に応じて気分安定薬や睡眠導入剤などの向精神薬を使用します。

心理社会的療法

心理教育

心理的治療には心理教育があります。これは統合失調症という疾患について正しく理解することです。

患者さんにお話を伺うと、多くの方がインターネットで病気についての情報を得ておられました。
インターネットで病気についての情報を得られる方は多くおられると思いますが、中には誤った情報や主観的な情報も見受けられます。
誤った情報から服薬を自己調整したり、通院をやめてしまい病状の再燃につながる方もいらっしゃいます。そのようなことのないように正しい情報について知っていただき、また何か治療途中で不安なことがあればいつでも相談していただけるようにしていきたいと考えています。

家族心理教育

心理教育は家族心理教育と呼ばれるものもあり、患者さんだけでなくご家族にとっても重要です。

「HEEの家族」「LEEの家族」について英国の有名な研究があります。HEEとはhigh expressed emotionの略で、患者さんのことを気にして、過干渉になったり感情的な対応のご家族のことをさします。一方のLEEはlow expressed emotionの略でのんびりしており患者さんにあまり干渉せず心理的な距離を取っている家族のことです。この研究では前者のご家族のもとに暮らす患者さんは服薬を継続していても再燃率が高くなるという結果になっていました。しかし、ご家族にとっては、患者さんのことを心配し、大切に思ってのHEEですので、ご家族に病気のことや適切な支援のあり方について理解してただくことが大切だと考えます。

生活リズムを整える

社会的療法は生活リズムを整えることが基本になります。統合失調症の患者さんは睡眠障害を生じることが多く、生活リズムを整えることに苦労される方もいらっしゃいます。生活リズムを整えることが社会生活や社会復帰、リカバリーに繋がっていきます。
患者さんのニーズに応じて、社会復帰に向けたデイケアや就労移行支援の利用等、社会資源を適切に利用できるように精神保健福祉士とともに支援を行っています。

※その他の治療法として電気けいれん療法(mECT)、治療抵抗性の統合失調症の患者さんで適応となるクロザピンなど当院では実施していない治療法もあります。これらの治療法は基本的に入院下で開始となるため、適応であると考える患者さんには実施している医療機関にご紹介させていただきます。